ここのホテルの朝ごはんはおいしい。特にいろいろとあるわけではないが、とびっきりおいしいシチリアオレンジに甘味を抑えたチョコクロワッサン。そして穏やかそうなおじさんの入れてくれる完璧なカプチーノ。そんな朝食を終えて今日のドライブ最初の町はNoto。ロンドンにある日本食レストランみたいな名前の町だとくだらないことを思っていたのだが、「美しい夏の行方 イタリア シチリアの旅」の中で辻邦夫氏によると「バロックが華やかに歌う町」といわれた町。ローカルの酒屋で樽から量り売りしていたワインを3リッターのポリバケツで購入。安いが重くて帰りが気がかりだ。車を止め大通りを歩くとベレー帽をかぶってジャケットとvネックのセーターをきちんと着込んだおじいさんたちが通りやベンチで、じっと道を眺めていたり、会話に花を咲かせていたり。何かポルトガルを思い出させる光景だ。昨日のタオルミーナとは違い、観光客ではなく住民が主役のなんとはない町だが、市庁舎も聖ドメニコ教会(ドームに登れる)も非常に調和がとれた街並みだった。一番の見所ニコロ教会が改築中だったのが残念だったが。
Notoの後は、カーブのきつい山道をのぼったりおりたりしながら、キアラモンティ ガルフィという町へ。トスカーナを旅したときにも思ったのだが、イタリア人はイメージほど明るくもあけっぴろげな人でも案外ないのかもしれない。というのも、町が築かれる場所が決まって山のてっぺんにあるから。険しい崖の上に、積み木を重ねるように築かれた町は一見不安定ではあるが、外部からの出入りが一目に見え、またそんな出入りを妨げる。よほど水道網を整備するのも電気を通すのも物資を運搬するのもラクであろう、谷には家一つ見られず、急なカーブをくるくると登った山に坂道のきつい町があるのは、日本の一般的な町の成り立ちと白黒を反転させたような光景である気がする。
さて、この町にやってきた理由はもちろんランチ。「豚の王」の異名を取るレストラン マヨーレがあるから。この近辺は良質の牛の産地であるそうなのだが、そんな中にあって「豚ひとすじ」の19世紀に創業されたというレストラン。メニューはもちろん豚づくし。前菜はビネガーとかすかにオリーブの香りがするゼリーが乗ったこれまたビネガーで柔らかく煮込んだ豚肉の荒いパテ。それと極上のサラミ。セコンドは豚肉の小さな角煮が入ったトマトとチーズの味のきいたリゾットとこれも角煮の入ったトマトソースのラビオリ。そしてメインは素朴なサルシッチャ(ソーセージ)のグリルと、つめものをした焼き豚のような豚のかたまり。そしてアーモンドのトフィーが入り、チョコレートソースのかかったアイスクリーム。全てが超美味。これすべてとハーフワインと水で二人で25ユーロ!イタリアでは数々のおいしい料理とめぐり合っているが、このレストランはそんな記憶に残る一店となることは間違いなし。
お腹が満腹になったあとは、この近くのラグーサという街へ。ここで有名なのはイブサという旧市街。新市街からこのイブサの町を見下ろし、暮れかけた旧市街をそぞろ歩き。夕飯はシラクサでアンチョビのスパゲッティー。